大根の味噌汁

子供の頃

鍵っこの僕は
友達の家でご飯を食べることが
良くあった

友達のお母さんは
とても美人でやさしい人だったけれど

時々目や鼻に殴られた跡があった

旦那がギャンブル狂いの大酒飲みで
気にくわないことがあると
奥さんに暴力をふるっていたのだ

でも彼女はいつもやさしく笑っていた

僕は彼女が台所で大根をとんとん、
と包丁で切っている姿を
今でも思い出すことができる

とてもやさしい笑顔で
どうしてそんな笑顔ができるのか

僕は子供ながらに
女の人は悲しくても笑えるのだと
こわく思っていた

おばさんはどうして笑えるの?
おばさんは幸せなの?
そう聞けなくて

僕は黙っておばさんの作ってくれた
あったかい大根の味噌汁をすすった

れいくんは本当に良い子ね

そう言われると涙があふれそうになった

今でもつらい時
そのおばさんの姿を思い出す

とんとん、と大根を切って
味噌汁を作ってくれた

おばさんの笑顔を思い出す